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●"Do Communications!" 5 〜「陰口を言うな」-母親のしつけ-〜

 私の母が1月29日早朝、自宅で静かに亡くなりました。その日は母の99歳の誕生日だったのです。翌日に白寿のお祝いの準備していたのですが、通夜の席に変わりました。
 母は、前日まで薪で風呂を炊いていたと兄から聞きました。晩年、それを彼女は日課としていのです。嫁いだときから、父と二人で農業を営み、4人の子育てをし、明治・大正・昭和・平成の激動の世紀を生き抜いてきた、ごく平凡な女性です。通夜で、飾られた母の写真を見ながら、私は子ども時代のことを思い起こしていました。
 ある夏休みの夕方、四つ違いの弟と将棋をしていました。そんなに上手ではありませんが、負けたり勝ったりで、二人は熱中していたのです。畑仕事から帰ってきた母が、「いつまで勝負事に熱中してるんや!そんなもんに熱中していたら親の死に目にも会われへんで!」と一喝されたのです。親の死に目とは、「大事なこと」と言い換 えてもいいと思います。二人は慌てて将棋の駒を片付け、家事の手伝いに飛び出したのです。
 それの影響でしょうか、私は大学生になってもマージャンや競馬などの勝負事や賭け事には興味がわかなかったのです。もっとも自由にできるお小遣いも少なかったのですが。
 もうひとつ、母の口癖がありました。「人の陰口を言わないこと」です。近所の女性たちで、よくやる噂話や、その場にいない人の悪口を言うことを彼女は極端に嫌っていました。子どもの私たちが、人の悪口を言おうものなら、即座に「止めなさい」「本人の前で言いなさい」と注意されたのです。人間関係トレーニングを学ぶようになって「気づきを促進するためのフィードバックは、直接本人にする」ことととの関連で、私はこの言葉を大切にしています。
 昨年の文部省の調査では、親が社会のルールや道徳を子どもに教え諭している割合が、韓国・アメリカ・イギリス・ドイツに比べて極端に低いことが報告されています。幸いに、「陰口を言うな」に代表されるしつけのメッセージを、私は母からたくさんもらったことを、心から感謝しているのです。
 さて、いま、親から子どもへのメッセージはどのようになっているのでしょうか。

(聖マーガレット生涯教育研究所 主任研究員 長尾文雄)

TSU・NA・GI第2巻第1号(2000/4/20発行)より