TSU・NA・GI

●"Do Communications!" 17
〜 「じゃんけんぽん!」と「自分で選ぶ」 〜


 私が行っている体験学習とか参加体験型学習と総称される研修プログラムのなかで、しばしば二人組み(ペアー)を作る場面があります。
「いまから行う実習は、二人組みで行います。相手を決めてほしいのですが、できれば初対面の人を探してください。どうぞ動いてペアーをつくってください。」と指示をします。多くの参加者は回りの顔を見回して、この人と決めて近づいていく人、隣同士でなんとなく組む人、近づいてこられたらなんとなくその人でといいとしてしまう人、なかなか選べなくてうろうろしている人、選ばれるのを待つ人、ついには誰も見つけられずにはぐれてしまう人などが出てきます。
この場面にも、体験学習の素材としての「いま、ここ」の体験があるのです。
いまからともに活動をする相手を「選ぶ」「選ばれる」という体験です。「選択する」ということは、自分が誰を好んでいるか、誰を必要としているか、自分の態度表明になるのです。新しいグループのなかで積極的に「選択」行動をとることは、自分を表明してしまうというリスクを伴います。できればそれを避けたいと思うのが自然な気持ちのでしょう。
ペアーができた後に、「では、これからの役割を指示するために、Aの人、Bの人を決めてください」と伝えます。すると、自分からAを選ぶ人、相手がAと指示する人、「どうしよう」と顔を見合わせているペアー、比較的若い人の多いグループの場合、さっと出てくる決め方は、「じゃんけん」です。
ここでも、決める・選択する行動は、自分を明らかにすることです。選択する内容もそうですが、選択や決定の行動そのものから「この人は強引な人、弱気な人、ぴったりとこない・・」などと相手に見られるのではないかという小さな不安を抱くのです。「じゃんけん」はこのような自分の中の不安・葛藤を回避するために優れた方法なのです。
しかし、体験学習の場や日常的なちいさな場面で少し意識して、決める・選択する行動を取ってみる練習をしてはいかがでしょうか。すると、自分が自分の人生の主人公であることを実感できるでしょう。自分をオープンにして人とのかかわりを持つ、これがコミュニケーションの基本です。

(聖マーガレット生涯教育研究所 主任研究員 長尾文雄)

TSU・NA・GI第3巻第2号(2001/6/20発行)より