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●"Do Communications!" 6
「うちの子に限って…」-親と子の信頼関係-


 最近、青少年によるにわかには信じ難い事件が立て続けに起こっています。西鉄バスジャックの少年は、現場にかけつけた両親とは直接話しをしたがらなかったとのこと。ここですんなり親の説得に応じるようなら、元からこんな事件は起こさないだろうな、などど比較的単純に考えることができたかもしれません。少し前までは…。
 “人を殺す経験をしてみたかった”ために、たまたま玄関が開いていた家の見ず知らずの女性を殺害した少年は、学業成績優秀というだけでなく、スポーツもよくする文武両道、更にお年寄りにもやさしく接すると評判の極めてバランスのとれた生徒だったそうです。この報道に接して、大勢の人々が頭を抱えてしまったことと思います。特に同じ年代の子どもを持つ親御さんたちにしてみれば、他人事では済まされないような複雑な気持ちを抱かれたかもしれません。親のいうことを聞かない子どもばかりではなく、親のいうことを聞く良い子どもであったとしても、もう一体何をしでかすかわからないということになれば、親と子の信頼関係など風前の灯といった感があります。
 「うちの子に限って…」、「うちは絶対大丈夫」とやみくもに信じようとすることと、「うちの子は何かあるんじゃないか」と頭から疑ってかかることは実は親の内側にある不信感が裏と表に現れた姿かもしれません。親子関係も含めて、良い人間関係といえば私達は、相手ともめることなく一体感が持てる関係だと思い込んでしまいがちです。そのためつい家の中では波風が立たないことを望みます。けれどたとえ家族であっても、人は一人ひとり異なる存在であり、お互いに100パーセント理解しきれるとは限りません。その前提にたって、それでもお互いに相手を尊重し理解を深めるためには一見穏やかな波の下でも絶えず潮の流れや変化が起こっており、そのため時には海が荒れることを理解し、それに対応しなければならないという覚悟が必要でしょう。そうした波風にさらされてこそその親子、家族関係はより真実なものとなり、親の不信感の投影ではないより現実的なレベルでの子どもへの信頼が可能になるのです。
 ノンフィクションライターの久田恵さんが「関係とはささやかなことの積み重ねなのだ」という警句を発しておられますが、日々の生活の中でこそ、ていねいに大切に家族とかかわっていきたいと改めて感じさせられる今日この頃です。

(関西学院大学社会学部 専任講師 川島惠美)

TSU・NA・GI第2巻第2号(2000/5/20発行)より