TSU・NA・GI

●"Do Communications!" 7 〜親のSOS!〜

 TVのワイド・ショーは、連日、17歳の少年が起こした豊橋の殺人事件と、バスジャック事件を報じています。今朝は、それに誘発されて、両親が家庭内暴力をふるう17歳の息子を殺害した事件と、17歳の息子を殺害し、自殺をした父親の事件を取り上げていました。
 ひとりは“人を殺す経験をしてみたかった”と言い、それに共感して、バスジャックをし、人を殺傷する。学校や友人関係では、いわゆる「良い子」や「普通の子」とされている少年が事件を起こす。この少年たちに自分の息子を重ねあわせ、事件を起こす前に殺害してしまう両親。この負の連鎖をどのように受け止めればよいのか、言葉になりません。
 ワイド・ショーの各コメンテーターは饒舌です。ジャーナリストは、「これは緊急事態ですよ!」と絶叫。精神科医は「緊迫した状況では、親か子のどちらかが緊急避難するしかないですね」と、危機回避の方策を述べる。法律家は心の専門家には言いにくいのですがと前置きして、「ここまでくれば、打つ手はないでしょう。法的な整備をして第三者が介入することです」と暗に警察の協力を示唆しています。一連の事件の闇を分析や解説で解き明かそうとしてきた専門家も、悲惨な事件に展開しないための予防策しか提供できなくなっているようです。
 少年事件の起こるたびに、「親はどうしていたのか、親がしっかりと子どものSOSに対応しておれば、こんなことにはならない」といったメッセージがマスコミをから流されます。一般論ではそう言えるかもしれません。
 しかし、殺害に至った両親ならずとも、いじめに会い寡黙になり、引きこもる少年を持った親。学校ではいい子で、家では親に暴力をふるう少年を持つ親。子どもに良かれと思ってきたことが、突然に子どもからも世間からも否定される。親自身も人一倍心を痛め、傷つき、自責の念にかられ、なす術を失い、学校や児童相談所、心の専門家、警察などに助けを求め、必死になって解決をしようとしていたのではないかと想像できます。
 「どうしていいか分からない」と、パニックになっている親たちもいま、SOSを発しているのです。このSOSを受け取り、支えること。これが私たちの優先課題ではないでしょうか。

(聖マーガレット生涯教育研究所 主任研究員 長尾文雄)

TSU・NA・GI第2巻第3号(2000/6/20発行)より