TSU・NA・GI

●「のじまのつぶやき」 3 〜見えない事実-草地賢一氏を悼む-〜

 去る1月4日、被災地NGO救援連絡会議代表の草地賢一氏が急逝された。年末まで第一線で働いておられただけに、信じられない思いだ。震災以前から、PHD協会において東南アジアの農業支援等を行われてきた氏は、震災以降、持ち前のフットワークでNGOなどのネットワーキングに力を尽くされていた。おそらく被災地で活動するNPO、NGOのなかで彼の名前を知らないものはないだろう。
 それらの精力的な活動の一方で、彼には別の姿があった。いや、その姿が、彼の行動原理になっていたのかも知れない。それはキリスト者としての草地氏であった。私と氏との出会いは、13年前にさかのぼる。私はミッションスクールである関西学院中学部に入学し、神戸の教会を紹介された。氏はその教会の牧師の一人であった。そういえば昨年6月に私が洗礼を受けた際も、氏は非常に喜んでくれた。その教会で氏は、当時、活動されていたアジアの問題について時折説教をされた。「草の根支援」これが彼のキーワードであった。
 この高度に複雑化する社会のなかで、それぞれの市民がその所属する社会へ自発的に参加することが必要となりつつある。いまや「市民参加」という言葉は一般化しつつあるが、氏がこれまで続けてこられた草の根の活動こそが、その根底にながれるものだろう。私たちも特定非営利活動法人としての歩みを始めようとしている。この地域、この社会のなかで自発的な取り組みを始めようとしている。ここにも氏が蒔かれた一粒の種が芽生えようとしている。
 氏の前夜式(通夜)で読まれた聖書の箇所、ヘブライ人への手紙11章1節。「信仰とは、望んでいる事柄を確信し、見えない事実を確認することです。」いま、私たちは見えない未来へ向かって歩もうとしている。不安もある。多くの困難もあるだろう。しかし、確信を持っている。やがて、見えない事実を確認するまで、氏の思いは、ここに息づいている。氏の魂の永遠なることを思わずにはおれない。

(ブレーンヒューマニティー代表 能島裕介)

TSU・NA・GI第3号(2000/2/1発行)より