TSU・NA・GI

●「のじまのつぶやき」 5 〜においの記憶〜

 どこかで聞いた話なので、本当なのかどうかは知らないが、人間の感覚のなかでは嗅覚が最も長く記憶されるらしい。先日、関西学院千刈キャンプで行われたわくわくスプリングキャンプ2000で、それにまつわるこんな出来事があった。
 キャンプ初日の夜のこと。私たちはホールでゲーム大会をするため、準備をしていた。準備が整い、子どもたちがホールに入ってきた。その日は、かなり冷え込んでいて、子どもたちはホールにおいてある石油ストーブの周りに集まっていた。「暖かいなー」そんな話がされていた。すると小学校低学年の女の子がこんなことをいった。「地震のにおいがする」そばにいた私はこの言葉を聞いてはっとした。
 電気やガスなどのライフラインが寸断された震災当時、多くの避難所や家庭では石油ストーブが暖をとるために用いられていた。石油ストーブを使うと灯油特有のにおいが出る。おそらくその女の子は、ホールの石油ストーブのにおいをかいで、震災直後の記憶をよみがえらせたのだろう。
 震災から5年あまりが経つ。あの女の子が震災を体験したのは、まだ3歳くらいのとき。私たちの記憶からは震災の出来事が徐々に薄れつつある。でも、私たちの記憶のどこかで、震災は息づいている。記憶を消し去ることはできない。だからこそ、この活動を続けていくことの意味を感じる。
 私たちが目指すのは2010年。その年、震災当時に生まれた子どもが中学校を卒業する。あの女の子の一言が、私たちの目標を新たに再確認させてくれた。

特定非営利活動法人ブレーンヒューマニティー代表
能 島  裕 介

TSU・NA・GI第2巻第1号(2000/4/20発行)より