●“relation”〜本会スタッフのリレーエッセイ〜 15 水垣君、バトンを渡してくれてありがとう。学生最後の今号に寄稿できることを大変嬉しく思います。今回は、2月中旬に行ったインドでのできごとを綴ります。 それはインドに入って3日目のこと、カルカッタから乗った列車でのことであった。2等寝台の窓には格子が付いているのだが、とある駅に着くと、その格子越しに一人の男の子が来て「ノーファーザー、ノーマーザー」と言いながら手を口にやり、食べるものをちょうだい、というしぐさをするのである。ボロボロの服はもとの色が何だったか分からないほど汚れていて、顔はやせこけていた。 別にこれが初めてだったわけではない。それまでにも何人かに物乞いをされたが、普通は「ノー」と言うとあきらめてまた違う人のところに行く。しかし彼は、停車時間の10分間、どれだけ冷たく接してもこちらを見ながら訴え続けた。「あなたしかいない」そう言われているように感じた。もちろん、お金や食べ物を渡すことはできたが、それはしなかった。というよりかは、彼の眼を見ていたら金縛りのようになって身動きがとれなかったというのが正直なところだった。普段日本で接している子どもたちを思い出し、格子越しに彼の心の叫びを聞きながら、様々な思いが交錯し、涙が出た。そうしているうちに、列車はまたゆっくりと動き出し、私の心にはずしっと重いものが残った。 その日は暑い日だった。喉の渇きを潤そうとコーラに手を伸ばしても彼の姿がよみがえってきて、買うのがためらわれた。結局その日は朝買ったパン(6個入り、10ルピー:26円)だけで過ごした。 窓格子に顔をつけ壮大な風景に目をやりつつ、黒煙を浴びて食べるパンの味は、噛みしめる度、甘く、また苦くもあった。 まずこの世に生きられる幸せを。 そして夢を持てる幸せを。 私は窓格子の向こうにいた 少年の眼を忘れません。 それでは最後に、宮前君に バトンを渡したいと思います。 |
特定非営利活動法人ブレーンヒューマニティー 常務理事 橋本 崇 TSU・NA・GI第2巻第11号(2001/3/20発行)より |